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「おーい、ステファン!大変だ、大変だ、これを見てくれ!」
「なーに?いつもながらに騒がしいね。どうしたの?」
息せきってドアを開けてきた黒衣の男、サイモン・プラサドをステファン・バルトゥーはいつもの通り悠然と出迎えた。
「レンヌに火種と布の買出しに行ったら、お触れが出てたんだ!買った布を一枚拝借して内容を書き写してきたんだけど、これがもうとんでもない事でさあ」
サイモンは巾着をぐりぐりとまさぐって、その布を取り出した。表面に書かれた文字を、ステファンは淡々と読んでいく。
「…北方蛮族の侵入に我がガロンヌ州はもはや対抗できる術を持たない。今週、土の曜日をもってエトルリア帝国はガロンヌ州を放棄し、隣のアルプ州に全ての軍民を移動する。もしこの命に従わぬ場合は全ての家財、食糧を接収し、場合によっては死罪に処する」
「ついにこの日が来たというわけか。あっけないな」
青いローブを身にまとう長髪の男が、奥の部屋からゆったりと歩いてきた。彼の名は、パトリシオ・ヤンという。
「のんびりしてる場合か!土の曜日って言ったらあと三日しかないんだぞ」
焦りを隠せないサイモンに、ステファンは相変わらず何事も無いかのように穏やかに応じる。
「ああ、三日じゃここの撤収はまず終わらないね。僕ら二人、片付けるのが壊滅的にヘタクソだから」
「この中で最も整理整頓が出来ているのは、どう見てもサイモンだな」
「つまりなんだ、俺に全部やれっていうのか?冗談じゃない」
そう言ってそっぽを向くサイモンの肩を、ステファンはそっと叩いた。
「諦めないで、方法がもう一つあるから」
「おっ、本当か!教えてくれ、なんなんだ?」
サイモンは少し期待を浮かべた目でステファンの方を向いた。そんな彼に、ステファンは容赦なくこう答えた。
「三人で逃げよう。それが一番いい」
「なんだとぉ?!」
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