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「ま、どの道成果も資料も道具も全部持って出て行くなんてまず無理だったから。これでよしとしなきゃね」
あっさりと言ってのけるステファンに、早速パトリシオが次を見据えた提案をする。
「それで、まずはどこに逃げるかだな。なおかつ、私達は戦いを得意としない研究者…護衛を雇うことも考える必要があるな」
「そうだね、ここからだとバエト州かアルプ州か…帝国の命令どおりにアルプに逃げるのもありだけど」
「言うとおりにしたところで、結局また冷や飯食わされる気がするのは俺だけか?」
「ごもっともだね。高飛びできるものならしたいよ。例えば、ずっと向こうにある国とかね」
ステファンはそう言って、東の方を指差した。エトルリア帝国よりずっと東に行くと、同じくらいの規模を持つ強大な王国があり、更にその東には謎に包まれた島国があるということらしいが、そんな場所まで行くのはこの当時の交通事情を見れば命がけに等しかった。
「この二つの選択肢ならば、バエトに行くほうが今までよりは自由にやれるかもしれないな」
パトリシオが冷静に見解を述べる。
「その代わり、たぶん仕事は探し直しだろうけどな。そこんとこ考えないとキツイと思うぞ」
と、すぐにサイモンから指摘が入る。
「三人力を合わせて、売り込めば良いじゃない」
結局、最後はステファンが事も無げにまとめようとするのだった。
「お前を見てると不安が尽きないよ…とにかく、バエトに行くならパトが言うとおり誰かに守ってもらわないとなあ。どうやって探す?」
「レンヌの酒場に行って、流れの戦士にでも声をかければ良いんじゃないか?」
「そうしようか。こういう世の中だから、持ちつ持たれつって事で言いくるめればタダでも護衛してくれるかもしれないしね」
非常に楽観的なステファンを、サイモンは相変わらず不安げに、パトリシオは何も考えていないかのように見つめていた。
「それじゃ、行こうか」
「分かった」
「はいはい」
一行は、ステファンを先頭に歩き出した。
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