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研究所から続く獣道を暫く歩いていたとき、パトリシオが突然足を止めた。
「あだっ!なんだよパト、突然止まるなって!」
最後尾を歩き続けていたサイモンは当然のごとく、急に止まったパトリシオの背中に激突した。
「悪い。何か変なものを踏んだようでな」
「こういう所で人が踏むものって言えば、そうだね…」
「ステファン、汚いネタは禁止な」
二人が掛け合っているさなか、パトリシオは落ち着いてゆっくりと視線を地面に向けた。だが、その顔は見る見るうちに青ざめていった。
「どうしたの、顔に斜が入ってるよ?」
「…二人とも、すぐに走って逃げてくれ。私も後からついていく」
訳が分からないがとりあえず、と思って二人が駆け出そうとしたその時、後ろから飛び出そうとしていたサイモンが盛大に転んだ。
「どわっ!なんか足に巻きついてるぞ!何なんだよ、これ!」
「あぁ、蛇みたいだね」
ステファンはあっさり答えながら、既に数メートル前方を走って逃げていた。
「一人だけ余裕ぶっこいてんじゃねえ!助けろよ!」
「サイモン、そいつはどうやらマムシだな。下手に刺激するよりはそこで動かないほうがやり過ごせるかもしれない」
「これが落ち着いてられるかっての!」
サイモンは、背負っていた杖をどうにかこうにか取り出すと蛇に向かってがむしゃらに振り回し始めた。そのおかげでどうにか噛み付かれる事態には至っていないが、力尽きればマムシの毒を得るのは目に見えていた。
「そうだ、パト。思いっきり大きな声で助けを呼ぼう」
「…そうだった。そこは私の得意とする所だったな」
パトリシオは思い出したように頷くと、大きく息を吸い込み、普段の物静かさからは想像もつかないような野太い声を周囲に響かせた。
「誰か、助けてくれ!!仲間が蛇に襲われているっ!!」
―それを言い終わるか終わらないかというタイミングで、スパン、と綺麗な音がして蛇の血液が辺りに少し飛び散った。
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