猫恋歌

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猫恋歌

猫だって恋くらいします。 あの路地を 日が傾きはじめて 夕暮れの色に染まった その白い艶やかな毛並みをした君は 素知らぬ顔で歩いて行く。 昼間、君がどこにいるのか僕は知らない それどころか君の声さえ聞いたことがない。 ただただあの路地を優雅に歩く姿を 静かに見送るだけ。 最初はどうでもよかった。 寧ろ僕の唯一安らげる場所(ナワバリ)を 通過されることが癪だった。 けど、いつしか夕闇時になると 無意識に君の姿を探してキョロキョロする僕がいた。 最初、僕はその事に驚いたし 自己嫌悪さえした。 他のヤツと深くかかわるのは 命取りにしかならない。 誰かがそばにいることが当たり前になると、その誰かを失ったときや裏切れたとき 誰よりも辛い思いをするのは自分だと、 もう誰とも深くかかわらないと、 僕は捨てられたとき学び誓ったじゃないか。 あぁすいません。 ついつい熱くなってしまった。 意味がわかりませんよね? 説明する前にまずは僕の生い立ちから 話しましょうか。 ―僕がまだ小さな小さな仔猫だったころ。 早くから親を交通事故で亡くした。 あまりにも小さい頃だった為 親の記憶はない。 しかし、不思議と寂しさはなかった。 僕のそばには常に兄弟が多くいたからかもしれない。
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