-イノセント- 真実

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【Innocent】と書かれた小さな木目の看板がぶら下がる、銀縁の重いガラス戸を押し開ける。 窓一つなく、照明が最低限に絞られた薄暗いその店内に足を踏み入れれば、 「いらっしゃ……って、こら? うちはカフェじゃねぇぞ? それに、開店前だ」 開店前だって言うのに、お客様なら『いらっしゃいませ』と、愛想を振り撒くつもりだったらしい此処の店のマスターは、 あたしの顔を見るなり、わざとらしく眉間に皺を寄せた。 でもそれは、心底迷惑してる、って顔じゃない。 目尻を下げた瞳の奥も、僅かに上がる口端も……。 全体的には笑っているように見えるから。 例えそれが苦笑いってやつだとしても、知らんぷりだ。 居座るつもりでカウンターの椅子を引く。 怒ってつまみ出されるなら別だけど、そんな薄情な真似するはずないし、 結局は……、 「何か飲むか?」 ピック一つで器用に氷を丸く削るマスターの前に座ったあたしを、こうして優しく迎えてくれるんだから。
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