-イノセント- 真実

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その表情の意味を、あたしはどうやら捉え違いしたらしい。 「一華がいなくなった俺は、抜け殻状態だった。そんな俺を見て、うちの店のN0.1が教えてくれた」 「……」 「一華が夜上がったのは、借金の返済も終わって、お店を継続させるだけのキャストも育て上げたからだって。でも、それだけが理由じゃない。 一番の理由は……惚れちまった男が出来たせいだった」 「え?」 「自分の存在が、その男をダメにする。一華を思うあまり、他の客に目を向けなくなった男の為を思って……」 「なっ!! まさかそれって……響……ちゃん?」 響ちゃんは何も言わない。 何も言わず無言で肯定する。 てっきり、あたしの言葉に傷つき悲しみを滲ませてたと思ってたのに……。 そうじゃない! あたしの言葉のせいなんかじゃない!! 響ちゃんを想う、一華さんの切ない気持ちに響ちゃんは胸を痛めたからであって……、 単なる響ちゃんの片思いだってことで片付けようとしたあたしの思惑は大きく外れて、二人はまさかの両想いだったなんて……。 予想外の結末に、響ちゃんの目を醒まさせる方法を完全に見失ったあたしは、言葉を詰まらせた。 「うちのNo.1と一華は幼馴染だったらしい。全てを知っていたうちのNo.1は、見るに見かねて俺に全てを話してくれたんだ」 「……」 「それから俺は、今までのスタイルを捨てて、一からやり直した。 一華とまではいかなくても、恥じぬ接客を心掛けてな。 そうやって1年後。No.1を手に入れた俺は、ホストを上がった」 「……」 「もし、一華に出逢ってなかったら。俺は今でも汚れた世界に塗れて、堕ちるとこまで堕ちてたかもな。 俺にとっちゃ、一華は暗闇に射し込んだ光だ。 そんな女を今でも俺は……忘れられないんだ」 嘘偽りのない瞳で真っ直ぐ見る響ちゃんから、あたしは視線を外し俯いた。 そうでもしなければ、込み上げてきそうになる涙を耐えられそうにもなかった。
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