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酷く濃い霧が辺りを覆っている。視界は二メートルに満たない。
自分がどこにいるのかの確認も出来ずに、目を凝らしながら、どこへ続いているのかも判らない道を歩く。
私は一体どこにいるのだろう。
私は一体どこへ向かっているのだろう。
歩みを止めることなく、考える。だが無論、答えなど生まれるわけもなかった。
道なりに歩み続けてどれだけの時間が経ったのだろう。ふと、濃霧がまるで円を描くように開けた。
そこには、見覚えのある後姿が三つ。その三つに取り囲まれるようにして、もう一人が蹲っている。
何が起きているのか判らないまま、それらから目を離せずにいると、こちらに背中を向けていた一つが、ゆっくりとこちらを振り返った。
「ひっ……!」
思わず、小さく悲鳴をあげてしまった。
振り返ったその顔のパーツがぐちゃぐちゃだった。まるで失敗した福笑いのように、本来目があるところに耳、鼻があるところに目、口があるところに鼻、額に口。
悲鳴に気付き振り返った他の二つも、また同じような顔をしていた。
「ひ、ひヒィ……マモレ、マモ……なかっ、ヒ、ハァ」
三つの化け物を目の前にし、動けずにいると、その中の一つがこちらを指差して言を吐く。酷く荒く、不快な息遣いと共に吐き出されたそれに続くように、他の二つも、本来の部分と違う部分にある口を開く。
「よわ、ヨワ、イィ……だカラ、ヤク……そく、ヒッ、ヒィッ」
「ニゲる? にゲタ! た、た……お、まエ、ッヒヒヒィ……にぃげぇた」
にぃ、げぇ、た。
よぉわむしぃ。
うら、ぎり、もぉの。
口々にそう吐きながら、化け物が近付いて来る。だが、身体はやはり硬直して動かない。
指が一本欠けている手が伸ばされる。
手首から先のない腕が伸ばされる。
そして、パーツが揃っていない顔が近付けられる。
「自分を守る為に、お前は逃げた」
今までとは違うはっきりと吐き出された言葉。しかしその声音は、男とも女とも区別の付かない、合成音声のような、そんな音だった。
その言を聞いた瞬間、悲鳴をあげ、目をぎゅっと強く閉じ、耳を両手で覆った。
そのまま少しばかりすると、不快な息遣いも、すぐ傍まで迫った気配も消え去ったのを感じ、手を下ろし、目を開いた。すると今度は、教室の戸の前に立っていた。
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