深い闇

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 扉を見た瞬間、訳も無く、開けてはいけないと脳が警告を発した。だが、まるで何かに操られているかのように、手が勝手に取っ手に伸びる。  駄目。開けちゃ駄目。中を見ちゃ駄目。  思考に反し、取っ手に触れた手が、戸を開いた。  瞬間、視界に飛び込む、首を釣っている女子学生の姿。  それは紛れもなく自分の、幼い頃からの親友。  気が強くて、いつでも自分を守ってくれていた大事な大事な友達。  今まさに縄に首を通したように、身体がゆらりと揺れる。その度に、縄が結ばれている電光灯が、ぎぃ、と妙に甲高い音をあげる。  その音に混じり、あの不快な息遣いが聞こえて来た。  耳元まで迫ったそれは、また、男女どちらとも判別のつかない声音で言う。 「逃げたから、こうなった」 「いや……違う……。私は逃げてなんか、逃げてなんか……!」 「また逃げる。お前はまた逃げる。だからこうして増えて行く」  見開いた瞳に映り込むのは、一つ、二つと増えて行く首を釣った彼女の姿。  何十人にもに増えた彼女。ゆらり揺れ、金属の甲高い音が響き渡り、そして、その音が止むと、死んでいる筈の彼女等が一斉にこちらに顔を向けた。 「お前の所為だ」  誰かに強く殴られたような衝撃で目を覚まし、最初に目に視界に入ったのは、真っ白な天井。続いてアルコールの臭いが鼻を突いた。  ――いつもと同じだ。  今回で何度目だっただろうか、あの夢を見て目を覚ますのは。一日に二回、三回と見ることもあるから、少なくとも両手では足りない数だろう。  ただ何故だろうか。いつもなら、あの夢を見て目を覚ますと不安でいても立ってもいられない筈なのに、今日は不思議なくらい落ち着いている。  良い事なのか悪い事なのかは判らないが、今日は何かあるのかもしれない――そんな風に思った時、病室の扉が静かに開けられた。そして姿を現したのは、夢の中で首を釣っていた親友。 「……なんで……」  驚愕した眼差しで言えば、そろりと入ってきてベッドの脇の丸椅子に腰を下ろした彼女は、にこりと笑みを浮かべた。 「やっと退院出来たの」 「退院? えっ、どう言うこと? だって」  彼女は死んだ筈だ。確かにこの目で見たのだ。彼女が首を釣っているところを。言うなれば、第一発見者なのだ。だと言うのにどうして彼女がここにいる? 退院とは一体なんのことだ?
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