親無し風之介

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 もうすぐ日が暮れる。不気味な烏の泣き声を聞きながら、懐に短刀を忍ばせた風之介は町へと続く細い山道を進んでゆく。    髪は乱れ右足はわらじが脱げて泥にまみれているが、強い意思を秘めた鋭い眼光は未だ八つの子供には見えない。    辺りが段々と暗くなって行く中で、風之介は前方に一人の老人の姿を発見した。老人も風之介に気付くと、ボロボロの布を巻いた杖を付きながらヨロヨロと近くに寄って来た。   「この辺りは盗賊が出る。奴らはこの明治の世にも、刀を振り回しているのだ。子供は危ないから引き返しなさい」    しかし風之介の意思は変わらなかった。 「私にはやらなければならない事がある。休んでは居られないのだ」
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