親無し風之介

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 声の主は先程の老人であった。ヨロヨロと杖をつきながらこちらへと向かって来る。その姿に男達は皆、笑い声をあげた。   「老いぼれが一体、何をしようってんだい?」    男達は腰の刀を抜くとすぐさま老人を囲い込んだ。しかし老人は不気味な笑みを浮かべている。男達の威圧に動じることもなく老人は杖に巻かれた布を解き、そこに仕込まれていた刀を抜いた。    抜いたと同時に老人の曲がった背筋は真っ直ぐに伸び、老人とは思えない程の軽やかな動きで舞い始めた。    それはまるで、老人の身体が刀に操られているかの様に見える。    異様な光景に男達はその場から動く事が出来なかった。老人の舞いは次第に速さを増し、空を切る刀の音のする度に、男達の力を奪ってゆく。    身体の感覚を奪われた男達は次々と手に持った刀を地面に落としていった。    それだけでは終わらなかった。男達は刀を持っていたその手で、自らの竿を激しく擦り始めた。風之介は何が起きているのか理解出来ずに、ただその光景を眺めている。
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