自覚

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結局、お昼休みはなんだか翔也に自分のペースを狂わされっぱなしで、ちっとも休んだ気分になれなかった。 午後のレジ研修は、商品の梱包を翔也に任せて私はレジ打ち担当になった。 まだ初日なのに、見事な梱包を仕上げる翔也に驚くばかりだった。 「悠木くんは綺麗好きなのね」 「なんでそう思うんですか?」 「整理整頓とか得意でしょ」 「…まぁそうですね」 袋に詰める商品の入れ方だけで、その人の性格がにじみ出るものだ。 この子は本当に迅速で綺麗な梱包をスラリとこなす。 その上容姿端麗と来れば、非の打ちどころがない珍しい人種だと思う。 …こりゃ女の子がほっとかないのも納得だ。 そんな事を思いながら1日目の研修が終わった。 翌日からは、私の隣のレジで翔也はひとりでレジを任される。 気づけば、翔也のレジに並んでいるのは女性ばかり。 …まぁあの容姿なら当然か… そう思いながら、翔也の様子を観察しつつレジを打った。 そしてまた昼休み、私は翔也と向かい合って食事を取っている。 …やっぱこの子、苦手だなぁ… そう思いながらも、もくもくとお弁当をつつく。 「…今日の卵焼き、すごい美味しそう…」 私のお弁当を覗き込みながら言う翔也が、無性に可愛く見えて私は言った。 「…あ…良かったらひとつあげようか?」 「え?いいの?」 「…うん、じゃ小皿…」 そう言った時に、目の前で 「あーん」 と口を開けた翔也が私をじっと見ている… …ま…マジで…? 固まる私に向かって、もう一度翔也が言う。 「あーん」 私は仕方なくフォークに卵焼きを刺して、翔也の口に運んだ。 「ん…うまい」 満足そうに卵焼きを味わう翔也に、私は再びドキンドキンと波打つ鼓動を感じていた。 …もたない… 明日もお昼休みが一緒だと… たぶん、私はこの子に恋してしまいそうだ… そう思っているとケータイにメールが届く。 『今夜寄る』 蓮からの短いメールだった。
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