自覚

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仕事に戻ってからも翔也の言葉が気になってしまって、私は全く落ち着かない状態だった。 教育係の責任以上に翔也をつい凝視してしまう。 さっきの… 「もっと触れてもいいよ」 と言った翔也の言葉が頭の中をグルグルと繰り返し響いている。 …私…動揺しすぎでしょ… たかが高校生の男の子… だけど、17歳の男の子って、思っているより本当はずっと大人なのかもしれない。 …やっぱり少しこの子とは距離を置くよう努めよう。 私は蓮だけでいいって思ってるんだし… そうだ、今夜は蓮が来る。 「…たまにはご飯でも作って待とうかな」 私の作った卵焼きを美味しいと言いながら食べてくれた翔也の顔が、なんだか蓮と重なって、急に蓮にご飯を作ってあげたくなった。 仕事が終わって、私はスーパーで食材を買い込んで帰宅した。 普段は蓮が帰ってから晩御飯を食べるのだけど、今夜は一緒に食べれるように蓮の分も作ってみる。 蓮…食べてくれるかな… 考えてみたらいつも奥さんの所に帰ってしまう蓮に、やたらご飯とか食べさせてしまったらいけないんじゃないかって遠慮してて… こうやって蓮に食事を作ろうなんて思ったの何年ぶりだろう… 蓮も付き合いだした頃は、私の料理を食べて、美味しいよって良く褒めてくれたな… そんな事を思い浮かべながら台所でいそいそと料理を作る。 午後7時を回った頃、蓮がやって来た。 「おかえり、蓮」 「ただいま、茜」 「あのね、今日ご飯作ってあるから食べて行ってくれる…?」 蓮のスーツをハンガーにかけながら私が言うと、蓮は目をまん丸くして驚いていた。 「どうしたの?珍しいね」 「えへ…なんかたまには蓮に食べて欲しくて…迷惑じゃなかったら食べて欲しいな」 クスっと笑った蓮は、私の頭をクシャクシャっと撫で 「…迷惑な訳、ないだろ…おかしな事を言うね茜は…」 と言った。
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