心のブレーキ

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「茜…また来るよ」 いつも通りに蓮の指を甘噛みして、帰って行く蓮を見送った。 虚しさの残る部屋で、私は蓮と食べた夕食の後片づけをする。 さっきまで蓮がいた食卓を眺める視界が涙で滲んで行く。 本当は、ずっと蓮といたい。 壊せるものなら蓮の家庭を壊してしまいたいと今でも思う…。 本音を言えば、奥さんよりずっとずっと私の方が蓮を愛してるって自信もある。 でも…もしも蓮がはっきりと私より奥さんを選んだら…私は蓮と離れなければいけなくなる。 それを聞くのが怖くて結局聞き分けのいい愛人のまま過ごして来た8年だった。 私の本当の姿を翔也が知っても… 「もっと触れていいよ」 そう言ってくれるんだろうか… こんなに心の汚い女なのに… そんな事を考えている自分にふと気づいて、なんだか急に笑えて来た。 …翔也が私なんて最初から相手になんかしてないの解ってるのに… 私は何を考えてるんだろう。 明日からは翔也を意識するのは絶対やめよう。 こんなおばさんを相手になんかするはずのない高校生にときめくなんて、バカバカしいにも程がある。 私は一生、蓮の愛人のまま生き行くしかないのだから。
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