心のブレーキ

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翌日のお昼休み。 …また私は翔也と向き合ってお昼ごはんを食べている。 研修期間は1週間。 その間は常に私と翔也はセットで扱われている事を、私はすっかり忘れていた…。 「あ、今日のポトフも美味しそう…」 昨夜、蓮の為に張り切って作りすぎたポトフが入った私のお弁当箱を覗き込んだ翔也は、またおねだりするような目で私を見つめている。 「…今日はあげません」 「え?…ちょっとくらいいいじゃん」 「…ダメっ」 まるで恋人みたいな会話にドキドキしてる自分が情けない…。 でもこのポトフは蓮の為に作ったものだから…。 さすがに翔也にはあげたくなかった。 「神崎さんって意外とケチ?」 「…なんとでも言って」 「…チェッ…」 残念そうに乗り出していた体を椅子に戻してやっと翔也も諦めてくれたようだ。 「…っていうか悠木くんさ、一応私30歳であなたよりずっと年上なんだから、タメ口はないんじゃないの?」 少しムッとした表情でポトフのじゃがいもをフォークで刺しながら言った。 「…だって…神崎さん可愛いんだもん」 「…は…?」 「…すぐムキになるし」 「…………」 もういいよ。 解ったから。 つまりあれだ。 君は完全に30歳のおばさんをナメてるって事だね。 ウン、解った。 「…おばさんをナメんなよ」 クスクスと笑う翔也に、つられて私も笑った。 なんか…もういいや。 はい、私は高校生の君にときめいてますよ。 でもときめくだけならいいよね。 それくらいの事は…許されるよね…。 私は結局、勝手に横取りされたポトフを美味しそうに食べてる翔也を見て、なんとなく小さな幸せを感じていた。
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