心のブレーキ

4/6
前へ
/65ページ
次へ
ホームセンターのバイトが終わって、私は週に2度、水曜と土曜の夜にだけスナックのバイトをしているけれど さすがに30歳にもなって来ると、体力的に厳しくなって来る。 今日もスナックのバイトが終わって帰宅すると同時に私はそのままベットに潜り込んだ。 昨日の蓮の香りがかすかに残っている布団にくるまって眠る。 …蓮… …もっと…会いに来て…。 声に出せない心の叫びをあげながら、私は深い眠りに落ちて行った。 「…さん?…神崎………茜…?」 誰かが私を呼んでいる。 ぽわんと目を開けると、目の前に蓮がいる…。 …蓮… 会いに来てくれたんだ… …愛してるよ…蓮… 私の肩にそっと触れた蓮の手を私はそのままスッと握って唇に触れさせる。 愛おしい指先を私はそのまま甘噛みした。 「…蓮って誰?」 突然はっきり聞こえた声に私はパチっと目を開けた。 甘噛みした指先から視線を上げて行くと、そこには冷たい視線を私に送る翔也の姿があった。 翔也の指をくわえたまま私は時間が停止した…。 「…だから、蓮って誰? …っていうか、俺の指、食いちぎる気?」 翔也の言葉に私は慌てて、くわえた指と手を放り投げた。 …しまった! ここは休憩室で…お昼休みで… 不覚にも昨夜のバイトがキツくて寝落ちしてしまった…。 しかも翔也を蓮と勘違いして、私は失態を犯してしまった状況…。 私は顔を真っ赤にしながら翔也に頭を下げた。 「…ゴメン…寝ぼけてた」 「…で、俺は蓮に間違われたって事ね」 「…………」 「もうお昼休み終わりだよ」 そっけなく言って私をおいたまま翔也は休憩室から出て行ってしまった。 …あぁ自己嫌悪… 翔也にも申し訳ないけど… また最近、蓮に対する執着心が強くなってる自分にも反省する。 翔也の目と蓮の目があまりにも似てるから… 「しっかりしろ!私!」 心のブレーキをきつくかけて私は休憩室を出た。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1876人が本棚に入れています
本棚に追加