恋しくて

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ふと気づくと、さっきまでの意地悪な目ではなく、なんだかすごく温かい目で私を包み込むような翔也の視線にどぎまぎする。 …そんな目で私を見ないでよ… ほら…またドキドキして来るじゃない。 「…な…何か顔についてる?」 「やっと素直に笑うようになったね」 「…え?」 「だって最初の頃、いつも引きつった作り笑顔しかしてなかったよ?」 「…………」 …それは… 私が翔也にときめいて恋してるからだよ。 その思いは絶対に君には言えないけどね。 「茜、今日楽しい?」 「うん、楽しいよ」 「そ、じゃ良かった。じゃ次の乗り物行こうか」 …おばさんもう少し頑張ります…はい。 翔也に引っ張られて並んだのは、観覧車の列。 観覧車なんて子供の頃に乗ったくらいしか記憶がないな。 小さい時は観覧車が大好きでお父さんにねだって何度も乗ったっけ…。 …そう言えば実家にも何年も帰ってないなぁと思い出す。 なんだか、翔也と出会ってから、次々と自分が忘れてた気持ちを思い出させてもらってるな…。 ドSの王子様だけど、もしかしたら彼は私の救世主かもしれない…なんて思ってクスっと笑った。 子供の頃はすごく広く感じてた観覧車の中は、大人になって乗ってみると、とても狭くて、足の長い翔也の膝が私の膝を包んで座ってるみたいだ。 「こんな観覧車って狭かったっけ?」 私が翔也に聞くと翔也は笑って 「茜が忘れちゃっただけでしょ」 と答える。 …そうかもね。 30歳なんて年齢になると、色々な事を諦めて、大切な事もどんどん自分から排除して行かないと持ちきれなくなる。 ほんの小さな事だけど、改めてそういう事に気づかせてもらえただけでも、この子に恋して良かったなと思ったりする。 薄紅色に染まり始めた空をふたり黙ったまま見つめながら、観覧車は登って行った。
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