恋しくて

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夕陽に包まれた小さな観覧車の箱の中… さっきまで怒ったように冷たかった翔也の瞳が、刹那そうに私を見つめて揺れている…。 甘噛みしていた指に自然に私の舌が触れた途端、ゆっくりと私の口から外されて行く指が微妙に震えていた……。 「…茜、観覧車降りたら帰るよ」 「…うん」 観覧車を降りてから、私と翔也は黙ったまま駅へと向かう。 来る時はあんなにたくさん話した電車の中でも、翔也はずっと黙ったままだった。 私もどうしていいのか解らなくてただじっと翔也に握られた手を見つめていた。 今朝待ち合わせた駅の改札を出ると、翔也がやっと口を開いた。 「茜んちってどこ?」 「あ、ここから5分くらい歩いたとこ」 「送るから」 「いいよ!一人で帰れるから…」 慌ててブンブンと手を横に振りながら言うと翔也はやっとニコっと笑って言った。 「もう暗いし女一人でなんて帰せないからダメ。道案内しな」 「…はい」 どうもこの命令口調には逆らえない。 結局私の家に向かってずっと手を繋いだまま歩き出した。 「…茜、今日楽しかった?」 「あ…うん!本当に楽しかったよ」 「…さっき…ごめんね」 「…あ…いや…いいよもう」 …少し反省してる翔也が無性に可愛く見えて、抱きしめてあげたいくらいだった。 「明日、お弁当よろしくね」 「うん」 「でも来週から研修終わりだからお昼休みは別々になるの?」 「うん、そうかもしれないね」 「そしたらお弁当はロッカーに入れておいてね」 「うん解った」 …そうか… しばらく一緒にお昼休みに話せなくなるんだな… そう考えると少し寂しいなと思ってしまう自分は、やっぱりこの子に恋してるんだなと改めて思う。 「あ…うちここだから」 私の言葉で、翔也が立ち止まった。 「今日は本当にありがとう、久々に楽しかった。」 私がニコリと笑って翔也を見上げると、満足そうに頷いてから翔也が言った。 「またデートしようね」 「…えぇっ?」 「じゃあ、茜おやすみまた明日」 ずっと握っていた翔也の手が、私からスッと離れる。 クルっと背中を向けて今来た方向に歩き出す翔也を私はなんだか幸せな気分で見送った。
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