夢と現実

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涙で滲んだ目をゴシゴシと手でこすった時、翔也が出勤して来た。 「茜、おは…どうしたの?」 拭っても溢れ出した涙が止まらなくて、翔也に気づかれる。 「…何でもない…」 「じゃどうして泣いてるの?」 「…悠木くんには関係ない!」 「…………」 強く言い放った私の言葉で、翔也の追及が止まった。 「おはようございまーす」 休憩室に入って来る中谷さんの声が聞こえて、私は翔也に背中を向けて一目散にトイレへと逃げ込んだ。 仕事が始まって、たくさんの家族連れが買い物に流れ込んで来る。 忙しいおかげで、その後の翔也の追及もなくバタバタとレジに並ぶ列を処理する。 今日が忙しい日で良かった…。 そうじゃなかったら私は今にも崩れて泣きそうだったから。 …そしてお昼休み。 とても不機嫌そうに私の作ったお弁当を食べている翔也と向かいあっている。 …神様は私を見放したんだろう。 意を決して私は口を開いた。 「…悠木くん… もう明日からはお弁当作れない」 「何で?」 「お願い、もう勘弁して」 「俺が嫌だって言っても?」 「…無理…ごめんね」 豚の照り焼きを食べながら翔也がため息をついて言った。 「…蓮と何かあった?」 「…………」 「茜はそんなに蓮が大切?」 「…………」 「自分のものにならない男なんでしょ? なんでそこまで茜が犠牲にならなきゃいけないの?」 「…犠牲なんて思ってない」 「じゃ何?蓮のために自分の気持ちずっとそうやって我慢して、それで茜は幸せだと思ってんの?」 「…………」 …幸せなんて思ってない。 でも今、蓮がきっと苦しい思いをしてる時に、私が翔也に浮かれてるなんて絶対に許されるはずがない。 「…もういいよ。解った」 「…ごめんなさい」 それきり翔也は一言も口を開かなくなった。 仕事が終わって帰宅しても、私はケータイに届いた蓮のメールを何度も何度も読み返していた。 『茜は何も心配しなくて大丈夫』 突き刺さってくる蓮の優しい言葉が痛くて痛くて私はそのたび涙を流していた。 …蓮… 今頃あなたは何を考えているんだろう。 最愛の奥さんが自殺未遂なんて現実を目の当たりに見て… あなたの心の片隅に、本当に私の居場所なんてあるんだろうか…  
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