夢と現実

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蓮の連絡が途絶えてもうじき1ヶ月。 暑かった夏も終わりに近づいていた…。 私は毎日仕事が終わると、真っ直ぐに家に帰宅して、ただひたすら蓮を待った…。 今の自分にはそれしか出来る事がなかったから。 研修が終わってからは、待ちわびていた中谷さんやその他のパートのおばさん達の間で、翔也と一緒の休憩は奪い合いになっていて、あれ以来、翔也と一緒のお昼休みは全くなくなった。 私には、正直ありがたい事だった。 まともに翔也の顔が見れないから…。 レジに立ちながら、時々私の様子をじっと見つめる翔也の視線は感じていたけど、私は決して目を合せなかった…。 …ごめんね翔也…。 開けてはならない箱を開けた途端、ありとあらゆる災厄が世界中に飛び出していったというパンドラの箱…。 きっと私の翔也へ抱いた恋心がパンドラの箱を開けたに違いない。 …蓮… あなたは今、何をしていますか? 苦しくないですか? …今でも私を愛してくれていますか? 私はもう限界だった…。 仕事が終わってから私は自宅とは逆方向の駅へと向かう。 懐かしいとさえ感じてしまう、あの会社へと向かう路線の電車に乗った。 …私と蓮が出会ったあの会社… あそこへ行けば、蓮に会えると思った。 せめて…顔が見たい。 5年ぶりに降りた駅には、仕事帰りのサラリーマンやOLがごった返している。 まだ同じ会社だった頃、いつも蓮と待ち合わせした駅の時計の下。 会社まで向かう銀杏並木。 生暖かい風に背中を押されながら私はあの会社へと向かって歩く。 …神様… どうか、一目だけでもいいから… 蓮に会わせて下さい…。 この曲がり角を曲がったら… 蓮に会えますように… 私はゆっくりとその角を曲がった…。
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