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ちっぽけな理由で会社を辞めてから、この年になって恥ずかしながら私はフリーター生活をしていた。
自分がひっそりと暮らせるだけの稼ぎだけで良かったし、蓮のいないオフィスで働く気力も私にはなかったから。
近所にあるホームセンターのレジのバイトと週に2度のスナックでのアルバイトで生計は充分すぎるくらいだった。
生きてるのか、死んでるのか解らないくらい私は何も感じない毎日を送っていた。
でもそれが妙に心地よくて、今の生活に満足している。
バイト先で一緒に働くパートのおばさんの中谷さんが
「茜ちゃん、もういい歳なんだから少しは恋とかしなさいよ」
とおせっかいな心配をしてくれるけど、私にとっては煩わしいとしか思えない。
恋なんてしない。
したくもない。
私は蓮しか興味がないから。
そんな夏の日の事だった。
毎年このホームセンターは、夏休み期間だけの高校生アルバイトを何人か雇う。
今年も事務所に制服をまとったキラキラと笑う子供たちが、時々面接に来ている姿を見て、私は
「あぁ…もう夏なんだな」
と気づく。
「神崎さん、バイトの高校生決まったんで、明日から来るから担当してくれる?」
総務の石田さんに呼び止められて、一瞬めんどくさいなと思った。
「そんなめんどくさそうな顔しないで」
ニコっと笑う石田さんの言葉に、つい顔に出てしまった事を反省する。
「解りました…すいません」
「高校2年生の男の子だから」
「はい、解りました」
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