失った心

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…翌朝、一晩中泣き続けた私の目は怖いくらいに腫れ上がってひどい顔をしていた。 今日は…翔也のバイトの最終日だ。 本当なら、きちんと翔也にこの1ヶ月無視し続けた事を謝りたかった。 あんなに懐いてくれて私にときめきまでくれた翔也にまで私の勝手で嫌な思いをさせてしまった…。 だけど…こんな顔を見せたら、翔也に余計な心配をかけてしまうだろう。 悩んだ末、私はお店に電話をかけた。 「おはようございます、神崎です… …あの…ちょっと風邪っぽくて… 申し訳ないんですけど、今日はお休み頂けますか?」 「あら、大丈夫? 神崎さんいつも頑張りすぎちゃうから…お大事にしてね」 「すいません…ありがとうございます」 私を気遣ってくれる石田さんの声にまた涙が溢れた。 …これでいい。 きっともう翔也も私に飽きれて、私の事なんて忘れて行くだろう…。 あの頃そう言えば、不憫な恋愛してたおばさんがいたな… いつかどこかでそう思い出してくれればそれでいい…。 パンドラの箱に触れてしまった罪の代償は、とてつもなく大きくて私は全てを失った…。 …暑かった夏が終わって、木枯らしが吹き始めた10月。 私はホームセンターのバイトを辞めた。 夏休みのバイトが終わってから、翔也がこのお店に来る事はなかったけど… ここにいると何故か翔也の事ばかりを思い出して、胸が締め付けられる苦しみから私は逃げたかったからだ。 あれから蓮への思いはだいぶ落ち着いて、自分の中で徐々に諦めの気持ちが芽生えてたけど… とうとう謝れなかった翔也への申し訳ない気持ちは、あの時のままだ。 「本当に辞めちゃうの?」 最後まで寂しそうに言ってくれた中谷さんは、本当はもっと心を開いて付き合えば優しいお姉さんだったのかもしれないと今更気づく自分が情けなかった。 お店を辞めてから、私は派遣会社に登録する事にした。 なんだか、無性にオフィスでまた仕事がしたいと思った。 でも30歳を越えると日雇い派遣の仕事はあるけれど、常駐派遣の仕事はなかなか見つからなくて、やっと仕事にありつけた時には蓮と別れてもう2年の月日が流れていた。  
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