記憶

6/6
前へ
/65ページ
次へ
会社を出て駅まで相川課長と一緒に向かう。 「神崎さん、副社長と仲いいの?」 「え?…別にそういう訳ではないですけど…」 「そう…栗原さんから色々聞いてるでしょ?」 相川課長の言葉に、栗原さんが言っていた「専務の愛人」って言葉が駆け巡った。 「…いえ…特には…」 私は何も知らないふりを決め込む。 「あら…茂木さんの事聞いてない?」 「…あ…」 そっちか… そう言えば、茂木さんは副社長に猛烈アピールしてるからどうとか聞いたかも…。 「茂木さんね、副社長の婚約者気取りだから。 副社長とあまり親しくすると、あの娘、危険だから気をつけなさい。 前の派遣の子も副社長に猛アタックして、茂木さんに潰されたのよ」 「…そうなんですか…」 「まあ、神崎さんは…32歳だっけ? それじゃ副社長は恋愛対象じゃないから大丈夫よね」 相川課長の言葉に、私の胸がチクリと痛んだ。 …そうだった… 私が翔也に抱く恋心は、またきっとパンドラの箱を開けてしまう…。 もう…あんな辛い思いはしたくない。 「神崎さんは、いい恋しなさいよ」 そう言って微笑む相川課長のどことなく寂しそうな目が、2年前までの自分と似ている気がした…。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1876人が本棚に入れています
本棚に追加