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翌日も、恐ろしいほどの計算書の束が私のデスクの上に届けられていた。
…これは今日も残業かな…
ため息をつきながら、パソコンの電源を入れる。
「大丈夫?少し手伝おうか?」
栗原さんが気を使って聞いてくれたけど私はニコっと笑って
「大丈夫。ありがとう」
と言って、入力を開始した。
しばらくすると
「斉藤くぅん、沙也の分手伝ってぇー」
甘っとろい声で、茂木さんが自分の分の処理伝票を斉藤くんのデスクに渡している。
「またー?もう沙也ちゃん仕方ないなぁ」
まんざらでもなさそうに、斉藤くんはニマニマと笑いながら伝票の束を受け取っていた。
ふと見ると栗原さんも相川課長も、また始まったって感じで呆れた目で二人を眺めている。
…なるほどね…
30代も過ぎた私たちにとって、茂木さんの行動は確かに目に余る部分がある。
でもこの子は翔也が好きで、婚約者気取り…
…翔也も斉藤くんみたいに、まんざらでもない顔をするのだろうか?
そんな事を一瞬考えたら、また私の胸がチクリと痛んだ。
…いかん…
パンドラの箱…パンドラの箱。
私は再び自分に言い聞かせて仕事に集中した。
お昼をデスクで済ませて、午後も集中して入力を続けているとまたあの茂木さんの甘っとろい声が経理課の部屋に響いた。
「あっ!翔也さぁん!今日は早いんですねぇ」
その声に、思わずパソコンから視線を上げると、ネクタイを締めて翔也が経理課の部屋に入って来る所だった。
「茜おはよ!頑張ってる?」
翔也が言った言葉に、一斉に私に視線が集まった。
…まずい…
そっと茂木さんに視線を送ると、まるで般若のような怖い顔で私を睨んでいる…。
私は、翔也を無視して入力を再開させた。
「…は?何で無視してんの?」
…やめてー…
お願いです、王子様…
私を巻き込まないでぇ…
泣きそうな目で見上げると、すっかり不機嫌そうな目の翔也…。
「おはようは?」
…もう諦めた。
「おはようございます副社長」
…翔也の大バカ!
あなたはKYですか?
心の中で暴言を吐きながら私はまた入力を始めた。
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