出会い

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午前中の接客だけで、すっかりレジ打ちに慣れた翔也と一緒にお昼休みに入る事にした。 「じゃ中谷さん、お昼休み行って来ます」 「はーい。茜ちゃん羨ましいわぁー」 すっかり翔也の動きに見とれてた中谷さんがニマニマしながら言った。 私は引きつった笑顔を浮かべてから、翔也と一緒に休憩室に向かった。 休憩室でお湯を沸かしながら、自分のカップと翔也のために来客用のカップを並べる。 「悠木くん、明日から自分のカップ持って来ておくといいよ」 「はい、解りました」 ニコっと笑って言う翔也が、やっぱり眩しい。 私はまたドキドキとする胸の鼓動に邪魔されて、冷静を取り繕うのに必死になる。 …相手は高校生じゃないか… 何ときめいてんの私…。 いい年したおばさんが、聞いて飽きれる。 私はクスっと自分に笑ってから、カップにお茶を注いだ。 お茶を入れ終わって、翔也に渡そうとカップに手をやった時に、ふいに後ろからスッと翔也の手が伸びて来て、カップの取っ手部分で私の手と重なった。 …ドクン。 そのいきなりの出来事に私は慌てて手を引っ込める。 「…あ…すいません。自分で持っていきます」 私を覗き込みながら怪しい笑顔で言う翔也に、私はますますドキドキしている。 動揺したのを悟られないように、私は 「あ、そう」 と平静を装って言った。 ダメだ…私… 何やってるんだろう… 自分のカップを持って、椅子に座り黙ったままお弁当を広げる。 向かいの席に座った翔也は、朝コンビニで買って来たんだろう、おにぎりを袋から出して包装紙をピリリと開けている。 「悠木くん、それだけで足りるの?」 育ちざかりの高校生の男の子とは思えない質素な食事を心配して私が言うと 「…うち、母親いないんで…弁当とか作ってくれる人いないんですよ」 「…あ…そう…失礼な事聞いちゃったね」 会話が続かない…。 もう私にはお手上げだ…。 もくもくとお弁当を食べ始めた。
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