旅人アルク

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『やあやあ、そこゆく人間よ』 しゃがれた声が、一人の青年の歩みを止める。 「これはこれは!珍しいものを見た。 ご機嫌いかがかな? 喋るカラスさん。」 青年は道の脇にある大きな岩へと返事を返す。 端から見れば奇行であるが、大岩で羽根を休めるカラスは喋る。 『はっはっは。 珍しいと言うが、お前さんも大概珍しいものだと思うがね。 喋るカラスを見た人間は、あらかた悲鳴をあげて逃げ惑うか、 不吉の前兆だと石を投げて来るものだ。』 「礼儀を知らない人間もいるものだ。 まあ、僕もカラスの礼儀とやらは知らないけどね。 それで、喋るカラスさん。 先を急ぐ旅人の歩みを止めるなんて、大事な用でもあるのかい?」 『ああ、大事も大事、大問題さ。 私はこれから陽が沈む先に飛ばねばならないのだが、 困ったことにお腹の中が空っぽでね。 羽根を広げると身体がひん曲がっちまいそうになるのさ。 何か食べ物をくれないかい? お礼に歌を、唄おうじゃないか。』 「喋るカラスの歌とは、奇々怪々にして興味深い! 是非に聴かせてくれまいか。」 青年がその場に座り込み、喋るカラスは軽く咳払いをすると、くちばしを天に向けて唄いだした。
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