夜布庵那は飽き飽きしていた。

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大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。 それを何度か繰り返し、心を落ち着ける。 邪念を取り払ったところで、まぶたを少しずつ開き、静かに唇を動かした。 「我、夜布庵那の名において、此処に永久(トコシエ)の契約を交わす。その身に宿すは焦熱の火焔、心に宿すは気高き誇り。全てを灰に帰す大いなる力を秘めし灼熱の姫君よ……今こそ我が前に姿を現さん」 庵那は即興で考えたオリジナルの詠唱を唱える。 普段からの漫画知識を引っ張り出して即座に応用してみせる発想力の高さは流石と言うべきだろう。 ……詠唱を終えた体勢のまま、三十秒が過ぎる。 「やっぱ何も起こらないか。まあわかってたことだけど」 これで漸く長くつまらない人生を終えられる……庵那の胸中は安堵感で満たされていた。 ここまでやったのだ、死に方は普通に包丁で首を掻っ切ろう。 そう思い、包丁を取りに部屋を出ようと、ドアノブに手をかける。
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