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上まで行きたいと言ったそいつは、何もないとこだって言ったのにそれでも迷惑じゃないならって結局ここまで着いてきた。もちろん、何を話したかなんて覚えてるだけの余裕はなかった。
「そういえばさ、なんで知ってたの、僕が描いてること。」
忘れられた神の社で昨日の疑問を投げかける。
「あ、それは聞いたことあったからですよ。先輩、ずいぶん前からここで描いてるでしょ。」
納得できるようなできないような。だけどそいつの顔に嘘はないように見えた。
「あ、てゆーか先輩、私の名前知ってます?」
いきなりすぎた言葉に、一瞬何を言ってるのかわからなかった。そんな、名前くらい…あれ?でもそれを言うなら。ぽかんとする僕を横目に優しく笑うと、そいつは言った。
「シオリです。笹岡七織。ななおりって書きます。」
素直に、綺麗な名前だと思った。
「僕は」
「まさ。まさ先輩、ですよね。」
それは何年も聞くことのなかった僕のあだ名。いつかの風が青葉を揺らした。
「あ、そう呼ばれてるのを聞いたからっ。」
春の風はまだ冷たい。突き刺す西陽が温かく感じるほどに。空はまだ青い。そしてそいつは、七織は優しく笑う。
「先輩の絵、見てみたいです。」
登ってきた傾きが僕らを少しだけ空に近付けて、暮れてゆく傾きが僕らを少しだけ赤く染め始める。ふと気が付けば僕も、自然とその傾斜に身を任せていた。
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