坂の傾き

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一目惚れって何だろう。字のまんま一目見た時から好きになることなんだろうけど、もしも目にした一瞬の姿に恋をするって意味もあるのなら、たぶん僕はあの時に一目惚れしたんだと思う。 「へー。珍しいじゃん、ピコが一目惚れなんて。ちょっと前までそんなの外道だーって言ってなかった?」 そうだ、相手のことを何も知らないのに好きになるなんて確かに反対だった。 「けど別にそれだけだからさ、時間経てばちょっとした気の迷いだったんだって思うかもしんないし。」 あいつのことは気になるけど、会わないでいるとだんだん忘れていくもんじゃないかな。 「あーもう、素直に好きだって言えばいいじゃん。一目惚れってのもそんなに悪いもんじゃないよー?」 朝の教室がまだざわつき始める少し前。締め切ったこの部屋には光の筋が射し込んでいた。 「知らん。つーか杏は最近どうなん?折尾とはうまくいってんの?」 杏の赤みがかった短いネコ毛がふわりと揺れる。 「当たり前じゃん!来月で2年だよ。冬人とは今でもラブラブなの!」 マシュマロみたいな頬が緩んでる。よかった、幸せそうで。杏は幸せにならなきゃいけないんだ。もう二度と、自殺しようなんて思わないように。 「ピコもまぁよかったじゃん、好きな人できて。なんかあったら報告よろしくね。」 杏は右手で優しくこぶしを作ると、それを僕のほうにそっとつきだした。僕も同じように右手で応えると、笑顔で頷いて隣の教室に帰っていった。
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