露子のトロッコ

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「助けて……」 誰かが助けを呼んでいる。 「お願い。 死にたくないの……」 何故かレールで横たわる女。 綺麗な黒く長い髪がぶわっと拡がっている。 大きな瞳は恐怖に見開き、口からは涎がでている。 どうやら体が動かせないようだ。 「……何でアイツがいるのよ」 アイツはあたしから全てを奪った。 幸せだったあたしから何もかもを奪った。 優しいふりして親友のふりして、心の中ではあたしを馬鹿にし、愚弄して利用した。 あたしから彼を奪った。 あたしにとって彼は掛け買いのない存在だったのに……。 悔しい……。 憎い……。 負の感情があたしの周りをグルグル回っている。 殺したいくらい……。 憎い……。 憎い……。 憎い……。 「お願いよ、露子ちゃん……」 女は…… 聡子(さとこ)はあたしに悲観する。 ここで聡子を殺せば復習できる。 誰も見ていない今なら、やれる……。 だけどあたしは『運び屋』。 聡子を葬る事は仕事を放棄した事になる。 仕事に対するプライドと聡子に対する憎悪が交差する。 あ……。 そういうことか。 『何か』の正体はあたしが心底憎み、殺したいと思う相手だったのか。
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