ケイトの友

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湯浴みとはそのまま風呂の事を指す。水の豊富でないこの国では、毎日湯浴みをすることは上流階級など富裕層のステータスにもなっている。ミラは王族。生まれた時から王家として守られ、縛られ、狭い世界で生きてきた。そんな彼女にとって水は常に隣にあるものであり、底をつかないものとして認識していた。 「他の国のことは知らないけど、この国では水は限られたものだ。」 ケイトの言葉に目を見開くミラは、続いてリザイアの顔を見る。リザイアの顔は当然だとでも言いたげだ。 「ミラ様は王族です。人の上に立つ人間が下の身分の者と同じ生活でどうするのですか。」 そう言うリザイアとて毎日湯浴みができるわけではない。勿論したいとは思っているだろうが、それを現実にするのは難しい。 「リザイアさん、王都には温泉とかないんですか?」 「近くにあったら私も行きたい。」 「ごめんなさい。」 問うたのはケイトだが、げんなりとしたリザイアの表情と言葉ですぐに謝罪する。ミラは黙っている。 「いい加減本題に入ろう。ミラはどうして俺ん家にいたんだ?」 「えっと、はい。逃げたからです。」 「もう聞いた。家のことなんでしょ?」 「はい。」 やっぱり、とミラの隣でリザイアが頭を抱えている。が、ケイトは興味なさそうに頬杖を突いている。予想通りの回答と言ったところだろうか。 「あれだろ?結婚とか婚約とか、そういう政治的なやつ。」 「え、なんでわかったんですか?」 「それ打ったの師匠と俺。」 ケイトが指差すのはミラが持っていた包み。カグルにとって生涯最期の作品である。
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