ケイトの友

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他の箇所には傷などないか確認するため、全体をじっくりと観察しているケイト。リザイアからミラへ無言の重圧。ただただ俯くしかないミラから鼻をすする音が聞こえてきた。タンと瞳から溢れた滴が小さな握られた拳を打つ。 「そうだよな、嫌だよな。」 ケイトの言葉に顔を上げたミラの瞳からは次々と滴が溢れている。リザイアはそれをみて鼻を鳴らす。本来ならば名誉なことを拒否しようとしているのだ。 「俺は親のいうことを聞くのが嫌で逃げた。」 突然昔話が始まった。リザイアから止める言葉は無い。ミラはケイトに差し出された清潔そうな布で顔を拭っている。 「魔法が使えるお前は騎士になれ。父がいつもそう言ってきた。俺は鍛冶師になりたいっていつも言ってたんだけどさ。父の言うことが絶対だったうちでは兄弟も母も父に逆らえなかった。稼ぎ頭の父が偉いのはわかっていたし、その父の言うことが絶対だってことも知っていた。でも俺は鍛冶師になりたかった。 俺は家を飛び出した。みんなには迷惑を掛けたと思う。でも後悔はしなかったし、今もしていない。そして俺は師匠のところに弟子入りした。後は知ってると思う。」 すっと立ち上がり水瓶から桶に水を注ぐ。自由に生きることを推奨するような発言をするケイトに、リザイアは渋い顔をする。 「俺は逃げて自分のやりたいことをやっている。俺は平民と言う立場だからこうしている。お前はどうするんだろうな、ミラ。」 二人に背を向けたまま砥石を桶に放り込んだ。王族だと言うことのフォローを入れたことでリザイアの表情が戻る。
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