転生者 現在五歳

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「ああ、婆さんか。いやな、この坊主がいきなり弟子にしろと言ってきてな。」 困ったように言う老人。 「そう。坊や、お家の人に言ってから来なさい。」 老婆は優しく告げる。 「鍛冶屋になることを反対されて家を飛び出してきました!折れるつもりはありません!」 引き下がろうとしないケイト。 「…仕方ないね。いいよ、うちにいな。」 フンと鼻を鳴らし、答える老婆。 「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」 必死に頭を下げるケイト。目には涙が浮かんでいる。 「おい、いいのか婆さん?」 小声で老婆に尋ねる老人。 「厳しさを知ったら泣いて帰るだろうさ。」 老婆が答える。その考えが甘いことを知らずに。 一日。二日。三日。一週間。二週間。一ヶ月。半年。 少年は、たった一度も弱音を吐かずに老人と老婆に着いていく。 老人は予想通り鍛冶師だった。老婆は研ぎ師だった。 老夫婦には子供がいた。 そう、いた。 何十年も昔に流行り病でぽっくり逝ってしまったらしい。 老夫婦はケイトに仕事を少しだけ教えた。彼らの子に教えられなかったことを。 ケイトが老人から習ったのは鎚の握り方だけ。老婆からは砥石の使い方と注意点だけ。 二人が見ていないうちに、見よう見まねで鎚を振る。二人が見ていないうちに、見よう見まねで打った刃物を研ぐ。 もちろん音が出る。下手くそな刃物が出来る。二人が気付かないはずがない。ただ放っておいているだけ。 技を教わることは大切なことだ。だが、盗むことは更に大切なことだ。 見て、とにかくやってみる。それが続く。 こうして五歳児は成長する。
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