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「ああ、婆さんか。いやな、この坊主がいきなり弟子にしろと言ってきてな。」
困ったように言う老人。
「そう。坊や、お家の人に言ってから来なさい。」
老婆は優しく告げる。
「鍛冶屋になることを反対されて家を飛び出してきました!折れるつもりはありません!」
引き下がろうとしないケイト。
「…仕方ないね。いいよ、うちにいな。」
フンと鼻を鳴らし、答える老婆。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
必死に頭を下げるケイト。目には涙が浮かんでいる。
「おい、いいのか婆さん?」
小声で老婆に尋ねる老人。
「厳しさを知ったら泣いて帰るだろうさ。」
老婆が答える。その考えが甘いことを知らずに。
一日。二日。三日。一週間。二週間。一ヶ月。半年。
少年は、たった一度も弱音を吐かずに老人と老婆に着いていく。
老人は予想通り鍛冶師だった。老婆は研ぎ師だった。
老夫婦には子供がいた。
そう、いた。
何十年も昔に流行り病でぽっくり逝ってしまったらしい。
老夫婦はケイトに仕事を少しだけ教えた。彼らの子に教えられなかったことを。
ケイトが老人から習ったのは鎚の握り方だけ。老婆からは砥石の使い方と注意点だけ。
二人が見ていないうちに、見よう見まねで鎚を振る。二人が見ていないうちに、見よう見まねで打った刃物を研ぐ。
もちろん音が出る。下手くそな刃物が出来る。二人が気付かないはずがない。ただ放っておいているだけ。
技を教わることは大切なことだ。だが、盗むことは更に大切なことだ。
見て、とにかくやってみる。それが続く。
こうして五歳児は成長する。
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