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そして、またある日。
「おっと、いけねぇや。鉄がねぇ。」
この日はカグルの一言で始まった。もちろんケイトは家事をしていたが、この日の予定が師の一言ですべて決まってしまった。
「珍しいですね。鉄が無くなるなんて。」
食器を洗い終えたケイトが手を拭きながら師の言葉に反応する。
「しかたねぇだろう。気付かなかったんだからよ。」
キセルに火を入れながら言うカグル。反省の色は無い。
「よし、鉄買いに行くぞ。」
「はい。…あれ?今まで買いに行ったことなんてありました?」
返事はしたものの、疑問を吐露するケイト。そんな彼にカグルはバカを見るような視線を浴びせる。
「じゃねぇと仕事にならねぇだろ。確かにうちは修理が多いけども、武器作りだってしてるんだぞ。」
「ええ。それは知ってますけど、鉄を買いに行くところなんて見たことが無いです。」
「は?何言ってんだ。何度も買ってんだろ。」
「あんたこそ何言ってんだい。いつもはケイトが鍛冶場に入ってる時に商人がうちに来るじゃないか。」
「そうだったか?」
ケイトとカグルの会話に口を挟むアン。どうやら忘れていたのはカグルのようだ。
「いつも商人の方が来てくれてるんですか?」
「そうだね。うちは修理が多いからあまり鉄を使わないけど、それでも月に一回、商人と話し合って決めた日に来てもらっているよ。」
カグルに聞いても仕方ないと思ったのか、アンに聞くケイト。アンもケイトの考えを理解したのか、カグルの方を見ずに答える。
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