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「今月は月を通して忙しいから取りに来てくれとさ。」
「今まではうちに来ていたんですよね?急に来られなくなった理由はなんですか?」
「先代がぽっくり逝っちまったらしい。倅はまだ一人で仕事が上手く出来ないから取りに来てほしいそうだ。」
「あそこの倅、三十超えてなかったか?」
カグルが口を挟む。
「親の仕事をしっかり見てなかったから大変みたいだよ。」
そうかそうか、と呟きながらカグルはケイトを見る。アンも釣られてケイトを見る。二人に見られているケイトは首を傾げている。
「えっと、なんでしょう?」
「…いいか。ほら、さっさと支度しろ。置いてくぞ。」
そう言われて慌てて駆けていくケイト。その背中を見ている二人。
「うちの弟子はしっかり仕事してくれているな。」
「そうだね。才能があって真面目だし、心配はないね。」
アンは家事を始めようと奥に入り、カグルは荷車を小屋から引っ張り出す。
「お、お待たせしました!」
奥から息を切らせたケイト。普段の修業で汚れてしまった服ではなく、少し綺麗なシャツとパンツ。
「…おめぇ、そんな服持ってたか?」
「いえ、持っていなかったんですが、アン師匠が以前買っておいてくれたんです。これで少しは町に行けるだろうって。」
仕事場のケイトばかり見ているカグルは、当然町に買い出しへ行くケイトへのアンの思いやりを知らない。頑張っている弟子への褒美だ。
「汚れると思うから着替えてこい。」
「…そういうことは先に言ってください。」
肩を落とし、奥へと消えていくケイト。カグルはカッカッカッと声を上げて笑うだけ。
数分後に漸く出発する。
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