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今二人は町を出て街道を進んでいる。荷車を引くのはもちろんケイト。カグルは荷車の上で紫煙を燻らせている。
彼らの進む街道を挟んでいるのは農地。畑ばかりである。遠くに農家のものと思しき民家が点々と存在する。
その光景をぼうっと見ながら歩を進めるケイト。周囲には車輪の音と、カグルが煙を吐く際の息の音しかしない。
「師匠?」
「あー?」
ケイトの声に応じるカグルの声に覇気は無い。
「この辺りの農家の方って、農具が壊れたらどうするんですかね?」
「あ?そりゃあ、おめぇ…。町に持って行くんだろうな。そんで修理してもらうか、新しく買うかだろう。」
ケイトの質問が予想外だったのか、少々困りながらケイトの後ろ頭を見て答えるカグル。見られている本人は農地を見つめるだけだ。
「…僕はこういう土地で仕事をしたいです。人の役に立ちたい。」
「…おめぇはそういうやつだ。将来は自分で決めな。」
短い会話を終え、またケイトは黙々と荷車を引き、カグルはキセルを吹かす。
長く緩やかな下り坂をただただ進む。春の陽気で体は温かい。あと半刻もすれば隣町に着くだろう。
二人はこの後も短い会話を数回交わし、隣町に到着する。現在彼らが住んでいる町よりも少々小さいが、人通りは多く活気づいている。
大通りには商人が自分の店を仮設し、彼らの商品を目指して人がごった返している。我先に商品を買い占める者達。ただ商品を見る観光者。ところどころ怪しい商売をしている者も見られる。
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