8733人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「すごい人ですね。」
「流通の要だからな、この町は。あの商店街の連中も、ほとんど行商人だと思うぜ。」
「ほぇ~。」
気の抜けた声を出すケイト。初めて見るのだろう。
「大通りには用事ねぇからな。」
「…はい。」
もしかしたら寄れるかも、という彼の甘い考えを一蹴するカグル。彼らは仕事のために来ているのだ。観光に来たわけではない。
「その商人の店はどこにあるんですか?」
未だ荷車から降りるつもりのない師に尋ねるケイト。
「もうちょっと進んだところだ。このまま道なりでいいぞ。近づいたら教える。」
「わかりました。」
また黙々と突き進む。
「ここを右だ。」
「はい。」
それからしばらくして、黙っていたカグルがケイトに指示を出す。すぐに反応し、進行方向を切り替える。
次はそれほど長い距離を歩かず、カグルに止まるよう言われる。
「邪魔するぞ。」
「あ、ちょっと待って下さい!」
「盗まれないようにここで待ってろ。」
「あ、はい。」
ケイトが荷車をどうしようか悩んでいるのに、さっさと店へと入ろうとするカグル。後を追おうとするケイトに荷車を見ているように言う。
「…。」
師が商人の店に入ってしまったため、暇になるケイト。荷車の上に座り、口笛を吹く。地球にいた頃の曲だ。
「…うぇっ!?」
気付いた時には荷車の周りに数人の幼い子供達。口笛を吹いて上の空だったケイトは気付かなかったらしい。
「ねぇねぇ、なんて曲なの?」
「ねぇ、なんて曲?なんて曲?」
ケイトを見上げながら目を輝けせる子供達。聞いたことのない陽気な曲だったのが原因だろう。
最初のコメントを投稿しよう!