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「あー、えっと…。俺の故郷の曲だよ。」
苦笑いを浮かべながら本当のことを答えるケイト。この世界に彼の奏でた歌はない。
「教えて!」
「俺にも教えて!」
子供達にせがまれるという当然の結果になる。これには困り果ててしまったケイト。彼には家事スキルはあっても、子供達を説得するスキルは無い。
「コォラ!あまり人を困らせるんじゃありません!」
そこに一人の中年の女性が店の中から現れる。別段美人と言うわけではない。少し腹の出ている普通のおばちゃんだ。
「うわっ、院長先生!」
「逃げろ!」
子供達は一目散に逃げようとするが、次々と院長先生と呼ばれた女性に捕まる。目にも止まらぬ早さとはこのことだろう。四人いた子供達が全員捕まり、中年女性の小脇に抱えられている。
「ご迷惑をお掛けしました。」
「いえいえ。あの、院長先生というのは?」
「ああ、私はこの町で孤児院の院長をしているんですよ。」
「ああ、だから院長先生なんですね。」
「ええ。」
ケイトの疑問にしっかりと答えてくれる孤児院の院長。
「こちらには何の用で?」
「ああ、包丁がね。錆びて根元から折れちゃったんですよ。随分長いこと使ってましたからね。」
困ったように答える院長。
「こちらで修理していただけないか聞きに来たんですが、無駄足でしたね。うちは鍛冶屋じゃないって言われましたよ。」
新品の包丁は売っているんですがね。と付け加える。
「ほぉ、丁度いいじゃねぇか。」
「あ、師匠。もう買ったんですね。」
店から出てくるカグル。彼の後ろには買った鉄が入っていると思われる大きな箱を抱えた数人の男。
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