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「おー。」
いつものように間延びした返事をする。
「あの、丁度いいって言うのは?」
「ん?ああ、お前が修理しろ。これも修業だ。」
カグルの言葉に口を開けたまま固まるケイト。
「俺はカグル。隣町で鍛冶屋をしているもんだ。このガキはケイトつって、まぁ弟子だ。あんた困ってんだろ?俺も弟子に経験を積ませたい。人助けだと思ってこいつに包丁の修理させてやってくんねぇか。」
「へぇ、若いのにもう実践ですか。」
「自分の修業だけじゃなく人のためになることをすれば、修行にも一層身が入るってもんだ。」
「わかりました。では、こちらの包丁の修理をお願いします。」
「ああ。預かるよ。」
「…ぇ~。」
ケイトのことなのに、本人抜きでどんどんと話が進んでいく。当のケイトは二人の遣り取りを口を開けながら見ている。
「よし、帰るぞ。さっさと荷車動かせ。」
「あ、はい。……これを、ですか?」
荷車に視線を向けたケイトの目に飛び込んできたのは荷車の上の鉄の山。てんこ盛りである。
「は?当り前だろう。」
「…。」
さも当然のように言うカグル。ケイトは荷車を見て唖然としている。
「じゃ、二日後の昼にでも包丁を届けさせる。どこに持って行かせりゃいい?」
「では、二日後の昼に正門でお待ちしています。」
「ああ、わかった。」
呆気にとられている弟子を放置して話は進む。寧ろ終わる。
「ほら、行け。」
「痛ッ!?」
腰の辺りを蹴られて転びそうになるケイト。渋々荷車に手を掛ける。
「フンッ!」
気合いは入っているのだが、動かない。
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