修行

14/50

8733人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「そろそろ落ち着いたろう。始めるぞ。」 「はい、わかりました。」 帰宅後、しばらく休憩をして漸く汗が引いた二人。作業を始めようと動き出す。アンは茶を飲んでいる。 「包丁の修理は明日だ。取り敢えず…今はこいつをどうにかするか。」 「ですよねー。」 家の前に置かれた荷車。その荷台には数多くの鉄の延べ棒。日はすでに傾き始めて二時間ほど経つ。この家の住民たちは誰も鉄の延べ棒を片付けたくないようで、積極的に動こうとする者は見受けられない。 「ほら、早くしろ。」 「…はい、頑張ります。」 師に促され漸く動くケイト。延べ棒を複数個持っては納屋に入れるという作業を繰り返す。カグルはキセルを銜えて紫煙を吐きだす。先程までの禁煙宣言はお流れになったらしい。 「…ハァ…オェ…。お、終わりました。…吐きそう。」 玄関の上がりに大の字でひっくり返っている。漸く引いた汗がまた彼の額から吹き出している。キセルを片手に彼を見下ろすのは師のカグル。 「おう、お疲れさん。」 「…師匠、結局止めなかったんですね。」 「あ?」 「喫煙。」 キセルを指差すケイト。 「ああ。今さらな。ほら、さっさと立って風呂入って寝ちまえ。明日はお前がやる初めての仕事だ。」 「はい。」 緩慢な動きで立ち上がり、ゆっくりと移動するケイト。相当疲れているようだ。家の奥にケイトが消えると同時にカグルの横から人影が現れる。 「明日はどうするんだい?」 ケイトのもう一人の師、アンである。 「ん。一人でやらせるさ。今のあいつの実力がどんなものか見てみたい。」 そう言ったカグルはニヒルな笑みを浮かべていた。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8733人が本棚に入れています
本棚に追加