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「そろそろ落ち着いたろう。始めるぞ。」
「はい、わかりました。」
帰宅後、しばらく休憩をして漸く汗が引いた二人。作業を始めようと動き出す。アンは茶を飲んでいる。
「包丁の修理は明日だ。取り敢えず…今はこいつをどうにかするか。」
「ですよねー。」
家の前に置かれた荷車。その荷台には数多くの鉄の延べ棒。日はすでに傾き始めて二時間ほど経つ。この家の住民たちは誰も鉄の延べ棒を片付けたくないようで、積極的に動こうとする者は見受けられない。
「ほら、早くしろ。」
「…はい、頑張ります。」
師に促され漸く動くケイト。延べ棒を複数個持っては納屋に入れるという作業を繰り返す。カグルはキセルを銜えて紫煙を吐きだす。先程までの禁煙宣言はお流れになったらしい。
「…ハァ…オェ…。お、終わりました。…吐きそう。」
玄関の上がりに大の字でひっくり返っている。漸く引いた汗がまた彼の額から吹き出している。キセルを片手に彼を見下ろすのは師のカグル。
「おう、お疲れさん。」
「…師匠、結局止めなかったんですね。」
「あ?」
「喫煙。」
キセルを指差すケイト。
「ああ。今さらな。ほら、さっさと立って風呂入って寝ちまえ。明日はお前がやる初めての仕事だ。」
「はい。」
緩慢な動きで立ち上がり、ゆっくりと移動するケイト。相当疲れているようだ。家の奥にケイトが消えると同時にカグルの横から人影が現れる。
「明日はどうするんだい?」
ケイトのもう一人の師、アンである。
「ん。一人でやらせるさ。今のあいつの実力がどんなものか見てみたい。」
そう言ったカグルはニヒルな笑みを浮かべていた。
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