修行

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本日は曇り。現在は人々が徐々に動きだす時間帯。 「げふっ!?」 「起きろ。いつまで寝てやがる。」 「…おはようございます。」 昨日の疲れが残り、いつもより遅くまで寝ていたケイトの腹に師の左足が乗っている。師に叩き起こされ、漸く寝床から這い出るケイト。彼を見下ろすカグルは溜め息を吐いている。 朝食を済ませたケイトは重たい体に鞭を打ち、鍛冶場へと入る。カグルも入るがケイトの様子を見るだけだ。壁際で腕を組んで突っ立っている。 師が手を貸さないことをすでに承知しているので、カグルの態度に対して何も言わない。預かった布に包まれた荷物。孤児院の院長から預かった折れた包丁である。ケイトは包丁につけられた木製の柄を外す。 「あー…。」 小さな声がケイトの口から洩れる。彼の手の中にある金属片はすっかり錆び着き、錆びた金属特有の色が柄であった木にまで移ってしまっている。 「師匠。」 「なんだ?」 顔を上げ、師を見る。その師は瞑っていた両目のうち、左目のみを開き弟子を見る。 「柄も変えたいんですけど、材料使っていいですか?」 「お前の好きにしろ。」 素っ気ない師の声を気にする様子も無く、また手元に視線を戻して作業を始めるケイト。カグルは少しの間ケイトの様子を見ていたが、少し経つと左目を瞑る。 包丁は熱され、赤くなっている。作業を進めるケイトの額には大粒の汗。片手で鎚を持ち、もう一方の手で器具を使い包丁を押さえる。そして振りかぶった鎚を振り降ろす。腕が振られる度に火花が散る。鉄が冷えて黒ずんでは赤くなるまで熱し、また打つ。
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