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最初は盛大に散っていた火花だったが、次第にその規模を小さくしていく。不純物が少なくなっていっている証拠だ。この場合は鉄が錆びていたので主に酸素だろう。
ジュッと音を起てて包丁が水に沈められた。一気に冷やされたそれを持ち上げてみる。
「ふぅ…。」
息を吐くケイト。額の汗を拭い、手元にある物を見る。
「うん。悪くない。」
彼の顔は笑顔。達成感がはっきりと表れている。頬が煤で黒くなっているが本人は気付いていない。
冷えた包丁を持って鍛冶場を出るケイト。その後をのんびりと追うカグル。この後ケイトが行こうとしている場所を知っているのでケイトを慌てて追う必要が無いのだ。
とは言ってもそれほど離れていない小屋にケイトは辿り着く。もちろん砥石が置かれている小屋。アンの修業に使われる小屋である。ケイトが来る以前は物置だった建物だ。それほど多くは物を入れていなかったため、すぐにケイトの修行場となった。
「あ?何してんだ、あいつ?」
小屋に入っていたケイトが肩を落として出てきた。右手には修理途中の包丁を包んだ布。左手にはブリキのバケツ。その中には砥石。
「…何してんだ?」
「…砥石を水に浸けておくのを忘れてました。」
生気の抜けた顔で呟くケイト。彼の様子にカグルは呆れている。
それから数十分、ケイトは水に浸かるバケツの隣に座り込み、様子を見ていた。カグルはケイトを見ていることに飽きたのか、どこかに行ってしまった。
「よしっ。」
砥石の様子を再確認し、再度自分に気合を入れ直す。
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