修行

17/50

8733人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
シャッシャッという音を起てて包丁は研がれる。砥石は一か所を使い続けると一か所のみすり減ってしまい、刃物にも影響が出てしまう。よってケイトは砥石の上にNを描くように包丁を研いでいく。 「…あ。」 小さな声を漏らして少し手を止める。何かを考える仕草をした後、また手を動かし始める。 「これくらいかな?」 ある程度時間が経ち、刃の様子を爪を使って見る。本人は疑問符を浮かべるが、納得する出来にはなったようだ。 包丁の持ち手を拵え、漸く包丁が完成する。すでに日は傾いている。ケイトの腹が大きな音を発てたことで彼は自分が昼食を摂っていないことに気付く。 「晩御飯作らなくちゃ。」 そう言って家の中へと駆けこんでいくケイト。もちろん包丁を持ってだ。するとすぐに家の中から声が聞こえ、一定のリズムを刻む包丁の音や何かを焼く音が外へと漏れる。香ばしい匂いも外へと漏れ出し、この家の前を通る人間は勝手に夕飯を想像する。 夕飯を口にしながら二人の師に講評をもらう。ついでに昼食を作らなかったことについての文句ももらう。師もケイトに気を使ったらしく、ケイトに声を掛けずに本人達で食べたので、あまり長い時間文句を言われることはなかった。いくつかアドバイスをもらい、今日の修業は終了となる。 明日はもう一度隣町へと赴き、孤児院の院長に修理を終わらせた包丁を渡すだけだ。それほど時間のかかる用事ではない。ケイトは特に思うことも無く、家事を終わらせて今日もいちばん最後に眠りに就いた。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8733人が本棚に入れています
本棚に追加