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翌朝。早い時間帯から慌ただしく支度をするケイト。そんなに急がなくても間に合う。むしろ早すぎるくらいだ。普通に歩いてもかなり早く到着してしまうだろう。
「おう、ずいぶんと早いな。」
「あ、おはようございます。師匠。」
支度をするケイトに話しかけるカグル。今はキセルを持っていない。自分の懐に手を突っ込んで、キセルと財布を取り出す。
「勝手に昼飯食って来い。」
そう言って渡される数枚の硬貨。一食を補うには十分だろう。
「昼飯は婆さんに任せておけ。お前は相手方に失礼の無いようにな。」
「はい、ありがとうございます。行ってきます。」
金を受け取り、挨拶を済ませて家を出ようとするケイト。
「馬鹿たれ。今行っても早すぎるだろう。しっかり朝飯を食ってから行け。」
ケイトの頭を掴んで止めるカグル。
「…そうですね。すぐに用意します。だから放して下さい。」
無言で手を放すカグル。ケイトの額には赤くはっきりと指の痕が付いている。その後、二人の師のためにあらかじめ用意していた朝食を温め、自分の朝食も作り、朝食を済ませる。
「では、あらためて行ってきます!」
「だから、少し落ち着け。」
「イッタイ!?」
カグルに足を引っ掛けられ、ビタンッという凄まじい音を起てて床に張り付くケイト。アンは気にもせずに茶を啜っている。
「包丁を忘れる馬鹿がいるか。」
「あ。やばっ。」
目の端に涙を浮かべながら片手で鼻を押さえ、もう一方の手で鞄に布で包まれた包丁を入れる。
「では、改めて行ってきます。」
「おう、気を付けろ。」
「いってらっしゃい。」
こうして漸く隣町へと向かう。
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