修行

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「ん~、やっぱり早く着いちゃったかな…。」 家で時間を潰したものの、やはりかなり早く到着してしまったケイト。日が昇りきるまでにはまだしばらくかかりそうだ。 「…うん、散歩。」 どうやら彼は街中を歩くようにしたようだ。前回来た時と同様、商店街は大いに賑わっている。しかし余分な金は持っていないため、ただ見て回るだけ。転生してからすぐに修業を始めたため、文化に触れる機会の少なかったケイトは見て回るだけで十分楽しめているようだ。 「あ、そろそろ時間かな。」 一人そう呟き、街の正門へと歩き出そうと踵を返す。踵を返した瞬間、目の端に黒く揺れる何かを捕らえ、もう一度その何かに目を向ける。 彼の視線の先にあったのは、長く黒い髪だった。齢はケイトと同じくらいだろうか。そのくらいの年頃の少女のようだ。この世界では別段、黒髪が珍しいというわけではない。しかし彼は目で捕らえ、徐々に離れていく少女を無意識のうちに目で追った。 「おっとと、時間時間。」 そう言って再び視線を変え、小走りで移動を始めるケイト。彼の頭の中にはもう先程の少女の事は無くなっているようだ。慌てて正門へと急ぐ。 走り去るケイトの背を少女も見ていた。しかし、彼女も踵を返し路地裏へと消えてしまった。少女がいなくなったことなど誰一人気付かず、商店街は変わらず騒がしいまま。 しかし、普段と異なることがあった。この日はやけに腰に剣を下げた者が多くみられたということだ。このことに気付いたのは街に住み、街をよく知る人間のみだった。
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