修行

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正門に到着し、周囲を見渡すケイト。まだ孤児院の院長は来ていないようだ。待たせなかったことに安心し、胸をなでおろす。自然と溜め息が出る。額から流れ落ちる汗を腕で拭い、衣服の襟を動かして体に風を送ることで涼を得ようとする。 「ああ、もう着いていましたか。待たせてしまったようですね。」 汗だくのケイトの後ろから話しかけるのは孤児院の院長だ。ニコニコと微笑んでいる。 「あ、いえ、僕も今来たところです。包丁を持って参りました。」 慌てて振り向き答えるケイト。汗は引いていないようだが、だいぶ落ち着いてきたようで、流れてはいない。うっすらと額に付くだけだ。 「フフフ。ええ、貴方を見ていたら今着いたことがよくわかります。走ってきたようですね。そんなに急がなくても気にしないのに。では、孤児院まで案内します。」 優しく笑いながらケイトを促す。院長のあとに続き、ケイトも歩き始める。 二十分程だろうか。歩いてきたところに古びた建物。普通の一軒家とあまり変わらない大きさの建物だ。色は茶を主としており、玄関には『天主の抱擁』と手書きの木の板が誇らしげに掛けられている。文字の周りには子供たちが描いたであろう落書きが群れをなしている。 応接間に通されたケイトは早速依頼品の包丁を取り出し、布を広げる。布の中にはもちろん包丁が入っている。打ち直し、再び研がれ、柄も新調された包丁は以前のより数段美しく刃を光らせる。包丁そのものが喜んでいるかのように。
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