修行

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昼の真っ只中と言うこともあり、院長が昼食をご馳走してくれることとなった。もちろん使うのは打ち直したばかりの包丁である。院長が昼食を作っている間、ケイトは子供たちの遊び相手を頼まれた。 外からは子供たちの声に混じってケイトの声が聞こえ、孤児院の開け放たれた窓からは院長の鼻歌が聞こえる。昼食の臭いが鼻孔を擽り、子供たちが各々昼食が何かを想像し始めた頃、院長が子供達を院内へと呼びこんだ。 用意されていたのは暖かそうなスープとパン。それから干し肉だ。スープには野菜が多く入っている。そもそも冷蔵なんて技術のないこの世界では、肉は基本干し肉。魚は塩漬けが主である。港町や牧畜地帯では別の話だが、この辺りは畑が広がるばかりなので、肉や魚はすでに加工されているものがほとんどだ。 「包丁を修理するだけじゃなくて、研摩もしてくれたんですね。以前よりも切りやすくて助かりました。」 「はい。錆びた部分を打ち直すついでに、刃の全体も打ち直して研ぎました。」 笑顔でケイトに話しかける院長。子供たちは腹を空かせていたようで、夢中で料理に食いついている。嬉しそうに腹を満たす子供たち。院長はケイトと話しているため、子供たちの行儀について言う気はなさそうだ。 「それでもあまり研いで無いんですよ。子供たちがいるので鋭すぎるのは危険かと思いまして。」 実際、かなり刃を鋭くしてしまうと、触れただけで皮膚が切れる。興味本位で何をしでかすかわからないのが子供だ。極力危険は避けるべきだろう。
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