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「可愛い言うな。」
「ごめんね~。」
可愛いと言われて拗ねている経一に英理が抱きつく。
「抱きつくなー!!」
経一が叫ぶ。顔は真っ赤になっている。だが英理は聞こえないのか聞いていないのか離れようとしない。
「あ、やべ。」
どこかから声がした。
「ん?英理姉、なんか言った?」
経一が英理を見上げながら問う。
「なにが?」
どうやら何も言っていないようだ。
ガシャンという音が鳴り、経一が振り向くと建築現場の足場が倒れてきている。
「英理姉!!」
「キャッ!!」
経一が英理を突き飛ばし、英理は経一から離れて尻もちを付く。
金属特有の甲高い音とそれに紛れて硬質の物体が何かに当たる鈍い音。その二つがその場を支配する。
「…ケイ、ちゃん?」
英理の視線の先には血溜まりに沈んでいる経一。
「え?…あ、いや、いやぁぁああああああ!!!!」
人が集まり始め、現場が人により暑くなり始める。対照的に経一は徐々に冷たくなる。
十数分後、到着した救急車が動かない経一と錯乱する英理を乗せ発進する。
病院に着き、手術室の前で祈り続ける英理。ずっと看護士が励まし続ける。
しばらくして、経一の両親と英理の両親が到着した。説明を試みるも上手く説明できない英理。
更に時間が経ち、手術室の扉が開いた。
一つの命の灯が消えたことを知らされた。
経一の母が英理を抱きしめて慰める。慰める経一の母は泣いている。英理もダムが決壊したかのように泣く。遮るものは無い。
金森 経一
享年 十五歳
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