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「では師匠、僕は修行に戻ります。」
カグルの返事も待たずに奥へと引っ込んだケイト。ツバキはまだ呆然としている。ケイトに放された手は力無く重力に従い垂れ下がる。
「わかったかい。これがあいつの決断だ。あんたらが今まで放っておいた時間だけケイトは成長してたのさ。」
キセルに火を入れながらツバキに言うカグル。紫煙を吹き、ツバキの返事を待つ。落ち着いてきたツバキは悔しそうな表情を隠そうともせずに力無く下げていた両の手を握りしめる。
「あの子のこと…お願いします…。」
カグルの返事を待たずに頭を下げ、頭を上げるなり外へと飛び出した。彼女もカグルの返事を待たなかった辺り、なかなか似ている二人なのかもしれない。
よっこいせ、と重い腰を上げ、ツバキがきちんと閉めていかなかった玄関の戸を閉め、家の奥へと入るカグル。
「お前はこれでよかったんだな?」
「はい。こうしないと僕の家族は前に進めません。」
廊下の脇に立っていたケイト。玄関でのツバキの頼みを聴いていたようだ。彼の目を見ずに問うとはっきりとした彼の考えが返って来て、カグルはそうか、と短い返事をする。
「家族と決別までしたんだ。生半可な腕になることは許さねえぞ。」
「はい。そのつもりで家を出てきました。」
漸くケイトの目を見ると、彼の目には確固たる意志が漲っていた。ケイトは指導お願いしますとカグルに言い、カグルもケイトと共に鍛冶場に入る。が、すぐに昼になり食事の準備を始めるケイト。今日もまだまだ修業は続く。
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