修行

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ケイトの母が訪ねて来てから数カ月が過ぎたある日のこと。この鍛冶屋に一件の依頼が舞い込んだ。その依頼のため、カグルとケイトはここ数日間碌な休憩も取らずに汗を流している。アンも依頼のため、仕事の道具の最終点検を行い、不足している物は買いに行く。 このジューノという国の現国王が溺愛する十五歳年下の妹が貴族の許に嫁ぐ。国王は散々駄々を捏ねたようだが嫁ぐという事実は変わらず、それならば盛大な結婚式にしようという話にまとまったらしい。今回の依頼は、その結婚式に用いられる宝剣を作ること。王都にまで名の届くカグルの腕を聴き付けた大臣が直々に依頼に来た。これほど名誉なことはないと依頼を快諾したカグル。 驚いたのは大臣が直々にカグルを訪ねてきたこともそうだが、さらに驚いたのはカグルの名が王都にまで知れ渡っていることだ。自分は凄い人物の許で修業していると漠然ながら実感する。 大臣が返った直後にカグルがケイトに向けてあることを言った。ケイトは驚きを通り越して、これは夢なのではないかとさえ考えたが現実だった。その言葉は、 「これは俺の最後の仕事になるだろう。」 これだけのこと。飯でも食うかとでも言うかのようにさらりと言った。あまりに自然すぎて幻聴かと思ったケイトはカグルに再び問うが、同じ言葉が返って来て鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔になる。 カグルはこの世界の基準から考えて、かなり長く生きている。そして彼は自分の死期を悟ったのだ。包み隠すこと無くそれを弟子に伝え、反応を見る。
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