修行

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ケイトの反応は師の最後の仕事を最後まで見て学ぶというものだった。そして彼は今鍛冶場で剣を打つ。師の最高傑作となり得る宝剣を打つ。師の業のすべて盗めるよう手元を観察しながら最大限手伝いをする。 しかし、カグルは気付いているが彼は気付いていない。 ケイトはすでにカグルを超えている。経験が浅く、決して慢心しないことから彼は気付かない。故にカグルは弟子に最後の作品を見せるため鍛冶場に入れた。後は経験を積んで欲しい。自分の生涯最後の仕事が弟子の目標になってくれればと思い鎚を振る。 弟子に遺すために鎚を振るう師。師から学ぶために鎚を振るう弟子。 必死の思いで鎚を振るう二人。強い思いが宝剣に注がれる。宝剣も結婚という強い思いの注がれる儀礼に使われるものだ。 打ち始めてから五日。漸く宝剣が打ち終わる。打ちあがった宝剣に鍔と柄を嵌め、アンに渡すカグル。 「あとは頼んだ。俺は寝る。」 「ああ、任せときな。見ておきなよ、ケイト。」 「はい。」 目の下に隈をつくったカグルが部屋を出ていき、同じく隈をつくったケイトはもう一人の師の仕事を見るため部屋に残る。アンは用意していた砥石で宝剣を研ぐ。 一回一回を丁寧に。何度も刃を確認して研ぎ続ける。ケイトはただただ見ていた。彼女の技術を盗もうと見ていた。ケイトはアンほど研摩が上手くない。彼の研ぎ師としての腕前は一般人から見れば上手い方。職人たちから見ればなかなか様になってきたガキといった程度か。
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